映画『太陽の子』

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東京都美術館コラボワークショップ「みる旅ー芸術と科学に出会い、過去と未来へ旅する3日間」レポート

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映画公開を記念して、東京都美術館さんとのコラボ企画「みる旅ー芸術と科学に出会い、過去と未来へ旅する3日間」が開催されました。

「映画 太陽の子」をみて、「イサム・ノグチ展」を感じて、世代をまたぐ参加者から活発な意見交換が行われ、映画・アートの世界へと旅する特別体験となるワークショップが行われました。

ワークショップ最終日には、本作監督の黒崎博、プロデューサーの森コウ、「イサム・ノグチ展」学芸員の中原淳行氏によるトークセッションも行われました。

 

~みる旅―芸術と科学に出会い、過去と未来へ旅する3日間~

「Museum Start あいうえの」による、スぺシャルプログラム。7月23日(金)~7月25日(日)の3日間に渡って開催。高校生と65歳以上の方が対象。美術館で展覧会(「イサム・ノグチ展 発見の道」)と映画(『映画 太陽の子』)を鑑賞。高校生も大人も、とことん話し合う夏の熱い3日間。芸術と科学をめぐる作品に出会い、世代を超えて未来について考える「みる旅」にでかけ、思考力と感性を高める、夏のスペシャル・プログラム。

  • 7月23日(金): みる旅①『映画 太陽の子』を味わう
  • 7月24日(土): みる旅② 展覧会「イサム・ノグチ展 発見の道」を鑑賞する
  • 7月25日(日):「クロストーク 未来を語る、未来をつくる」

 

会場には本作を見た感想を本編タイムラインに沿って可視化する特別ボードや、イサム・ノグチ展を見て感じたことを書き記した「冒険ノート」、イサム・ノグチを体感するために、彼のアートの原材料となる石などが展示。より活発な意見交換が行われました。

 

【クロストーク】

■日時:7月25日(日)13:00~14:30

■場所:東京都美術館

■登壇者:黒崎博(『映画 太陽の子』監督)/森コウ(『映画 太陽の子』プロデューサー)/中原淳行(「イサム・ノグチ展」担当、東京都美術館学芸員)/

稲庭彩和子(ファシリテーター、東京都美術館学芸員)

スペシャルプログラムも最終日を迎え、参加者の高校生と65歳以上の大人たちの間に様々なディスカッションが生まれ始めている中、クロストークが開幕

冒頭、プログラムの一環で参加者の気づきや疑問などを付箋に記して、映画の時系列に沿って貼り付けされたボードが用意されていたことについて、黒崎は「こんな風に、感じたり読み解いてくれたり素直に疑問をぶつけてくれていることが、しかもそれを映画の時間軸に沿って観れることが、映画の作り手にも貴重な機会になった。」と感想を述べ、また、プログラムで一緒に鑑賞対象になっている「イサム・ノグチ展」については、「人生を賭けて、ユニークなものを生み出しているパワーはすごいなあと思った。優しい作品たちだ、と感じた。金属や石は(物質としては)固いのに、柔らかいイメージを受け、製作過程は楽しかったんだろうなと感じた。」と印象を語った。森は、「(自分L.A.に22年住んでいるから)彼も行き来するアーティストで、自分にも近いところがある。日米またいで活動することはそれなりに難しいこともあるが、今回の彼の展示から見えた生き様からは刺激を受け、間違えなく、今後の自分の活動に影響するなと強く思った」と、自身のキャリアとも重ねていた。

中原は、「(映画は)映像と音がとても綺麗だった。原爆にまつわる話ではあるが、今がコロナ禍だから、というわけではないけれど、僕らが生きている前にこのようなことがあったという時間の近さも感じた」と話した。

 

トークは、プログラム参加者から寄せられたコメントに応える形で進行。本編でも印象的に描かれている“火”の意味については、黒崎は「火や炎が映るシーンがたくさんあるが、それはとても大事なモチーフで、意識的に炎を撮るようにしていた。炎は、人間を人間たらしめてくれるもの、という意味もあれば、人間の生活や地球を焼いてしまうものでもある。それは使い方次第でどのような意味にもなるもので、大事、撮りながら、自分たちで発見していきたい、自分たちの周りにはどのような炎があるんだろうと、探しながら撮っていったと思う」と、そこに込めた思いを語った。

食のシーンについても印象的だったという意見が多く、そのこだわりを聞かれると、「食べるというシーンも、とても大事だった。どんなに苦しい状況にあっても人間は食べないと生きていけない、そして誰かが調理してくれないと食べることができない。色々と難しい理屈やイデオロギーに直面することがあっても、まず食べることしなければ生きていけないから、“それを忘れないように”と、今思えば、母親はそういうことを言いたかったのかもしれない」と、振り返った。食事については、フードコーディネーターの宮田清美さんとともに、当時の京都で手に入る食材を調べて、メニューなどを考えていったという。

 

また日米合作の作品のため、日米スタッフの視点の違いについては、森は「確かに、日本人が当然理解しているだろうと思っていることも、アメリカ人スタッフは理解していないこともある。例えば、骨壺のシーン。あのシーンをどう理解してもらうかなど、確かに話し合った。そのような細かいやりとりは他にもあり、そのやりとりを経て、新たなものが生まれることもあり、最初の編集でなかったことも、あとから入れていったり、ということもあった」と、視点の違いも、映画によってより良い要素にしていった過程について触れた。

 

ファシリテーターから、「みる旅」というプロジェクトについて、「映画は時間の芸術であり、展覧会は空間を限定して体感する芸術。違うものだけれど、行き来することで、時間や空間の感覚が日常より広がり、まるで旅をするかのような感覚につながる」というコメントがあり、黒崎は「この映画には様々な時間軸がある。若者たちが過ごす、ひと夏。それは短いが、永遠に思いが残る時間。古都京都を包むようなゆったりした時間の流れ。一方で主人公の科学者たちが追い求める原子核分裂は億分の一という単位の刹那の現象。複数の時間軸を観る人に体験してもらうことで、ストーリーが重層的になるのかもしれない」と話した。

見る側から見せる側へなろうと思ったきっかけ」を投げかけられると、黒崎は、「広島の平和記念館の前館長から、“聞いたことは忘れる、観たことは覚える、体験したことは理解する”ということを肝に銘じて展示を作っているという言葉を聞いて、これは映画も同じだと思った。何かが残る可能性があるのかな、そういう作品作りができたら素晴らしい、と思いながらやっている。これまで名作映画を観てきて、凄いな、自分も作りたいな、と思っていたことも、(振り返ると)観たというより、没入して何かを体験したということなんだろうな、と思った」と、自らの体験を交えて話した。森は、「(どの作品が、というより)映画自体から人生に影響を受けている。その時々で感じることを繰り返して、そのたびに感動を受けてきた。観客に届けたいメッセージがあってそれを伝えたい、ということがあれば、どれだけ素敵なことだろうと考えるようになった。普通に観て、単純に娯楽として楽しめるものもあるのもよいとは思うけれど。今回、こういうコラボ―レーションのようなことをやるにあたって(イサム・ノグチを)色々と調べてみて、感じることが多く、先ほども話したけれど、新たな影響を受けた。あと、アラン・パーカーという監督に、『フィルムメイキングに関わるということは、人の人生を何十倍も多く体験できる』という言葉があるが、そういうところに強く惹かれた部分はある」と話す。中原は、「伝える、ということに携わりたいと思っており、美術が好きで学芸員になった。作品にはアーティストがいる。どう切り取って、どう味付けをするか。以前に言われたのは、展覧会の工程は料理をだすようなもの、ということ。料理はできている、じゃあ器はどうするか。料理は、器や順番によって味わいが変わる。不味いと言われるのは、モノが悪いのではなくて、工程に問題があるということだ」と、学芸員として、いかに展示を豊かにするか、礎になっている言葉について触れた。

また、中原は「イマジネーションとクリエーションは重なる。出会ったことも無い人のクリエイションに心揺さぶられることがある。これほどコミュニケーションが困難な時期において、イマジネーションはブリッジになる。アートだけが、それができるのではないかと思っているし、思いたい。だから、美術館は大切なのですよね」と、イマジネーションの可能性について触れると、森は「たくさんの人に見てもらいたいと思うけれど、たくさんの人に見てもらうべきというモチベーションは興行収入の目標も考えざるをえない。誰のために作るのか、内向的な作り方が、結果感動的なものになって、多くの人に観てもらえたパターンもあれば、有名な原作を予算も使って展開してもアート作品として正しく観てもらえない場合もある。プロデューサーは、かなり難しいけれど、そのバランスを見極めることかな、と思う」と、クリエイティブにおけるバランスについて話した。黒崎は、「どれだけ一般化するか、どれだけパーソナルなものにするか、は、常にせめぎ合っていること。正解はわからないけれど、我々作り手が今のベストの形だと思って進んでいる。どんな作品にも、ついてまわることで、それも作品作りの一環にあるものなのだなと思う」と話す。

 

「イサム・ノグチ展」と『映画 太陽の子』がクロスオーバーし、イマジネーションとは、感じたことを言葉にすることとは、その体験を未来にどうつなげるかなど、活発な対話が繰り広げられたトークセッションとなった。

 

 

「Museum Startあいうえの」とは https://museum-start.jp/

上野公園に集まる9つの文化施設が連携し、大人とこどもが共に学ぶ場を作り出していくラーニング・デザイン・プロジェクト。ミュージアムの体験が世界への豊かな冒険の入り口となるようデザインしていきます。