映画『太陽の子』

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デジタルハリウッド大学大学院 公開記念トークイベントレポート

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7月31日(土)に開催されたデジタルハリウッド大学大学院で公開記念トークイベントの模様をレポートいたします。黒崎博監督、プロデューサーの森コウ、デジタルハリウッド大学大学院の落合賢准教授が登壇。本作の映像を交えながら、製作者目線で映画の裏側を語り合いました。

<『映画 太陽の子』×デジタルハリウッド大学大学院  公開記念トークイベント>

■登壇(予定/敬称略):黒崎博(『映画 太陽の子』監督)、森コウ(『映画 太陽の子』プロデューサー)、落合賢(デジタルハリウッド大学大学院准教授/映画監督)

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日米共同製作となる本作。『ジョン・ウィック:チャプター2』のピーター・ストーメアが声の出演を果たしているほか、音楽やカラー調整などにはハリウッドのスタッフも参加している。森は「日米、それぞれのよさを作品に活かせた」と日本とアメリカのスタッフによる共同作業に手応えを感じているといい、黒崎監督も「あらゆる発見があった」と話す。

太平洋戦争末期を舞台としながらも、「“戦争に勝ったアメリカ”、“戦争に負けた日本”という、勝者と敗者の物語にしたくなかった。この人が間違っている、この人が正しいという話でもない。一人一人が矛盾をはらんでいるし、正しい瞬間もあれば、間違っている瞬間もある。それが人間なのかなと思うし、そういう物語を描きたいと思っていた」という黒崎監督は、脚本開発の段階を振り返り「日本人の僕が戦争の物語を作るにあたって、アメリカ側のスタッフとどのようなやり取りがあったのか、興味のある方も多いと思う」とコメント。

「僕が脚本を書き、それをアメリカのスタッフが読んで、いろいろなセッションをした。印象的だったのが、日本人はどこかで『戦争に勝てるわけがない』とわかっていながら、ずっと戦争を継続していた。僕はそれを当たり前のこととして書いていたけれど、アメリカのスタッフから見ると『なぜ日本人は、そんな不合理なことを続けたのかわからない』というんです。日本人だったら当たり前だと思っていることが、

決して当たり前ではない。それは事実だから変えようがないんだけれど、だからこそ『その時の不条理な感情をきちんと伝えなければいけないんだ』と気がついた。更に丁寧に心理描写を描こうと思った」とアメリカ側の視点を取り入れることで、より深く心理描写を掘り下げることができたという。

 

また音楽はアカデミー賞にもノミネートされた『愛を読むひと』のニコ・ミューリーが担当している。黒崎監督は「絶対にニコ・ミューリーさんにお願いしたいと思った」そうだが、「ニコさんはニューヨークを拠点にしている。日本とアメリカで離れているので、最初はオンラインでやり取りをしていた。これぞというところになかなか辿り着かなくて、もどかしい時期もあった」という。そこでニューヨークへと赴き、目と目を合わせてやり取りをしたところ、「ニコさんも『監督の意図がクリアにわかった』と言って、即興で弾いてみせてくれた。一晩で何曲も書き上げてくれた」とスムーズに曲作りが進んだと語る。森も「やり取りの密度、彼の曲作りの速さ、監督の気持ちの伝え方、すべてがうまくいった。対面したことで、監督の熱量が伝わった。人間のコミュニケーションって、そういうものなんだなと思った」と高みを目指したセッションができたと回想していた。

日本とアメリカ、それぞれのスタッフと力を合わせて映画作りに挑んだ本作だが、黒崎監督は「文化の違いがポジティブに響くところが多かった。いろいろな視点を感じられて、面白かった」としみじみ。続けて3人ともが、“ものづくり”への情熱という面では、人種の違いは感じないと声を揃えた。自らも監督として活動する落合も「いろいろな国の方と働くと、結局は個人それぞれの違いがあるだけだと感じる」とうなずき、森も「日米関係なく、監督がやりたいものを強く伝えると、みんなそれに応えてくれる。結局は、人と人のやり取り。情熱があって何を作りたいかというビジョンがクリアであれば、必ず達成できる」、黒崎監督も「どこの国の人かということは、最終的に関係なくなる。それぞれのセクションの熱量が、フィルムの中に投影されていく」とコラボレーションの醍醐味をたっぷりと味わった様子だ。

 

役者陣に関する裏話も、数々飛び出したこの日。劇中では、原子核爆弾の研究開発を進める若き科学者の石村修を柳楽、修と彼の弟の幼なじみの朝倉世津を有村が、戦地へ向かう裕之を三浦が演じているが、キャスティング秘話について、黒崎監督はこう打ち明けた。「主人公の修はとても難しい役どころ。根は優しいけれど、ある瞬間、一線を踏み越えてしまう狂気がある。その心理を表現できる人としてパッと思い浮かんだのが、柳楽さん」と告白。構想に10年かかっている本作だけに、本格的に制作を進められると決定するまでには、かなりの時間を要したようだが、黒崎監督は「制作のゴーサインが出る前から、柳楽さんに脚本を渡して『ぜひやってもらいたい』と告げていた」とのこと。「柳楽さんも、すごく早いタイミングで『絶対やりましょう』と言ってくれた。春馬くんも有村さんも同じ。『この人にお願いしたい』という自分の中に浮かんだイメージを抑えられず、最終的なゴーサインが出る前に『ぜひ一緒にやりたい』とオファーをした。そして逆にキャストから『作らなきゃダメですよ』と背中を押されたという。

2020年8月15日に放送されたドラマとは、また異なる視点でつづられる本作。黒崎監督は「テレビドラマ版は家族の視点から描いた。映画は、科学者の視点から光を当てている。同じテーマでも味わいの違うものが映画として仕上がっているので、その点も観ていただけたらうれしい」とアピールする。

 

実際に撮影が始まると、想定以上に「手持ちカメラで、どんどん(役者陣を)追いかけていくというシーンが増えた」と明かす黒崎監督。「柳楽くん、有村さん、春馬くんは、青春時代を演じているから、どんどん気持ちが前に出てくるような、アクティブなお芝居をしてくれた。それを切り取ることになるので、カメラは“付いていく”という撮り方が増えていったように思います。途中からドキュメンタリーを撮っているような空気があった」と役者たちからほとばしる熱量に驚き、有村演じる世津が工場で火をくべるシーンのメイキング映像が会場に流されると、森は「有村さんは、すごくストイックな役者さん。火を焚いている室内が息苦しくて、ものすごく暑い。でも有村さんは顔色も変えずに、何度もトライする。本当にすごい役者さん」と惚れ惚れとしていた。

届けられる本作、ぜひ今夏、スクリーンで鑑賞してほしい。

 

また、このたび『映画 太陽の子』が、文部科学省選定作品に決定したことを受け、壇上で森プロデューサーは、「親子でも、祖父母とお孫さん同士でも、若い年齢層の方にも観てもらえるように、と思っていたので、選定されて嬉しい」とコメント。<少年向き、青年向き、成人向き、家庭向き>という選定対象になっていて、全世代に押してくれた」とキャスト陣も前に進む力をくれたと話す。