映画『太陽の子』

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洗足学園音楽大学キャリアセンター主催キャリアイベントレポート

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このたび、8月5日(木)に映画の公開を記念して、洗足学園音楽大学キャリアセンター主催の「Create My Career」(CMC)に本作作の森コウプロデューサーがゲスト登壇。洗足学園キャリアセンター特別顧問の東原邦明がモデレーターをつとめ、『映画 太陽の子』の映像を交えながら、製作者目線で映画の裏側についてや、日米の映画製作の特徴、ハリウッドならではの制作の模様など、現在 のお仕事やこれまでのキャリア変遷について盛りだくさんのトークをレポートいたします。

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<洗足学園音楽大学キャリアセンター主催キャリアイベント>

■登壇:森コウ(『映画 太陽の子』プロデューサー)、東原邦明氏(洗足学園キャリアセンター特別顧問)

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『映画 太陽の子』の公開を前に8月5日(木)、同作のプロデューサーであり、ロサンゼルス在住・ELEVEN ARTS STUDIOSのCEO勤める森コウによる特別講義が洗足学園音楽大学にて開催された。

この講義は洗足学園音楽大学のキャリアセンター主催キャリアイベント「Create My Career(CMC)」の一環として開催されたもので、キャリアセンター特別顧問を務める東原邦明氏がモデレーターを務め、同学内の学生たちが出席したほか、オンラインでも配信された。

森は20歳でカナダにわたり2年半ほどの滞在で英語を習得。その後、28歳でアメリカに渡った。10代の頃から映画を数多く観ており、特にセルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を見て強く感動したという森。「いつか自分も同じようにインスピレーションを与えられるようになりたい」と映画プロデューサーを志したと明かす。

 

映画プロデューサーという仕事について森は「いろんなタイプのプロデューサーいるけど、僕の仕事は、脚本やストーリーなど、企画の元になるものを見つけて、それを膨らませていくというやり方。脚本が既にあれば、そこに監督をつけたり、俳優さんにお願いをしたり、お金を集めて撮影を作って、映画ができたら、それを映画祭に出したり、公開のために劇場に交渉したりします」と明かし、これまで製作してきた作品と共に、アメリカでの映画製作、日本との違いなどについて語っていく。

 

自身が製作したデイブ・ボイル監督『Man From Reno』について、ロサンゼルス映画祭でグランプリを受賞し、インディペンデント・スピリット・アワードにもノミネートされるなど、アメリカではかなり高い評価を受けたにもかかわらず、日本ではなかなか作品自体の認知度が上がらなかったと語り「日本の独特のマーケットの難しさを感じ、プロデューサーとしてステップにもなった作品だった」と述懐。

 

また、日本における“撮影”の難しさについても言及。沖縄で撮影を行なったプロデュース作品『ROCK THE PARK』での経験も踏まえつつ「日本での撮影に興味があるアメリカの人たちは多いけど、日本側で受け入れられる器が整っていない現状がある」と指摘する。

 

 

マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』やジョニー・デップ主演の『MINAMATA-ミナマタ-』など、日本を舞台にしつつも日本で撮影が行われていないが、こうした現状の原因のひとつとして「アメリカの各州やカナダ、欧州では“タックス・インセンティブ”、“タックス・リベート”と言われる制度があって、現地での撮影でかかった費用の20%とか25%が還元されるんですが、日本ではまだそれが確立していない(※森も委員に関わり、2年前から制度はスタート)」と語った。

 

そして、話題はいよいよ公開となる日米共同制作作品である『映画 太陽の子』の製作プロセスについて。特に、音楽大学に通う学生を前にしての講義ということで、本作の音楽および音響について、様々なエピソードを明かしてくれた。

 

全編が日本で撮影されたにもかかわらず、本作が「日米共同制作」となっているのは、ポストプロダクションの部分をアメリカで行っているためだが、この講義では音楽を担当したニコ・ミューリ―、サウンドデザイン(音響効果)のマット・ヴォウレスがスタジオで黒崎監督らと話をしながら作品に音をつけていく様子を収めた映像も公開された。

 

森氏は、サウンドデザインに関して「日米でプロセスが全く違う」と語り「アメリカでは、現場で拾う音と編集段階で作る音はある意味で別物で、現場で音が拾えなかったとしても、編集段階でアフレコもできるし、野球の先発投手とリリーフのように分かれている」と分業制が確立していると説明。一方で「日本は、現場で録っている人が(編集段階で)仕上げもやるので、現場で雨や風の音まで計算している。今回、サウンドデザイナーのマッドが『現場から上がってきたセリフがものすごくキレイに入っている』と驚いていて、これまでのキャリアの中でもこんなのは初めてだと言っていました」と日本の職人技の優秀さを称えた。

 

またニコ・ミューリーとの音楽をめぐるやりとりについてはリモートではなく顔を突き合わせてのコミュニケーションの重要性について指摘。当初、事前にミューリーが映画を観て、音楽を作っていたというが「リモートだと意思疎通がなかなか難しくて、“熱”が伝わらなかった。数ヶ月ほどリモートでやっても『これいいよね』というところまでいかず、結局、監督と僕がニューヨークまで行ったら、数日でできました。頭を突き合わせてのアーティストのぶつかり合いという意味で、(重要なのは)言語ではなく、別のところで表現できるものがあると改めて感じた、興味深いプロセスでした」とふり返った。

 

講義を通じて、生徒からの質問や相談にも答えてくれた森氏。アーティスト(歌手)を目指しているという学生から「自分をどうプロデュースしたらいいか? 日米で売れる音楽の違いなどもあることも踏まえて教えてほしい」という相談には、アメリカのマーケットの巨大さに言及しつつ「自分がどこのマーケットでどう売り出していきたいのか? どこにゴールを置くのかを意識することが大事。実際、(日米で)マーケットが全然違うので、自分がどこで認められて、誰に聴いてほしいのかを意識するのが重要」とアドバイスを送る。

 

そして、自身が20代後半になって、映画業界での経験がないままにアメリカに渡ったということを踏まえて「20代は何をやっても全然OK。なんなら、一度音楽から離れて、また戻ってきてもいい。いろんなことに挑戦するといいと思います」と学生たちに“チャレンジ”を呼びかけた。