映画『太陽の子』

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8月21日「太陽の小部屋vol.2」トークイベントレポート

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このたび、8月21日(土)に「太陽の小部屋vol.2」と題してトークイベントを実施させていただきました。若者たちの未来を守り、彼らの道を厳しくも温かく導く研究室のトップ・荒勝文策役を演じた國村隼、日々研究に励み純粋に科学の未来を信じていた学生・堀田茂太郎役を演じた葉山奨之黒崎博(監督)が登壇し、本作のプロデューサーの森コウをホストに本作品のテーマである、“未来”について、語り合ったスペシャルトークイベントをレポートいたします。

 

 

 

 

全国公開が始まって3週目、SNS上では “かつて存在した日本の原爆研究”に驚きつつも、「この物語を忘れてはいけないと思った」「気付きになった」、という声も多く寄せられている。そんな中、公開記念のトークイベントには、まさに、“物語を忘れず、未来をつなぐため”の役割を担うキャラクターを演じた、國村隼、と葉山奨之、が登壇。監督の黒崎も交えて、役作りから、テーマを受けて演技にこめた思い、自身が考える未来についてなど、盛りだくさんのトークが展開された。

まずは、戦争が終わった後の時代を見据え、若者たちを導く役柄を演じた國村。森プロデューサーから、劇中で葉山演じる研究室の学生・堀田に『アホ!』と叱咤するシーンについて質問があると國村は「脚本を読んだとき、(堀田は)『死ぬことなんて怖くないです』と、言う。確かに、あの時代、色々な資料も読んだりしていくと、彼くらい(年齢)の人間は、死ぬことを理解していた。というか、そういう(思考の)若者にされていたというか、特攻隊に行くのも、そういうことが自分の役目だと、凝り固まっている。それを、荒勝さんは『アホ!』と。怒っていることもあるけれど、それ以上にどこかで、『違うんだ』と。この時代だからお前はそう思っているだけで、この時代以外では誰もそう思わないし、戦争が終わった世の中だったらそう思わない、という、そんな思いも込めての“アホ”というセリフだった」と振り返る。

國村との共演ついて葉山は、「今回、このキャスト陣の中で自分が最年少で、足を引っ張らないように、浮かないようにしない、と思っていました。國村さんとのシーンも記憶がなくて(笑)、それほど緊張していたんだと思う。この映画を観た人、世界中の人たちに伝えないといけない、というプレッシャーがありました」と、とてつもない緊張感を持って臨んだ現場を振り返る。

それを受けた黒崎は、「緊張したと思います。國村さん始め、あの共演陣が並んでいるところに、そういうところに切り込んでいく、というのは、とても難しいことだったと思う。あの一言、『アホ』を國村さんに言ってほしくて演じてもらったんですが(笑)。(そのセリフを行為で例えると)ボコボコに殴って、ぎゅっと抱きしめる、みたい感覚が欲しいと思い、それを言ってくれるのが國村さんでした」と、演出について触れ、國村は葉山に「緊張感もいいように作用していたけれど、堀田なりに、この先生にこれを言わなければ、と、けなげさを感じた」と、“教え子”の演技を振り返った。

 

 

そんなプレッシャ―の中での役作りについて問われた葉山は、「撮影の前に、若手研究員で集まって勉強会をしました。だけれど、(彼らが研究している新型爆弾が)どのように作られているのかなど、何が何だかみんなさっぱりわからなかった。このままではクランクインできないな、という雰囲気になったとき、三浦誠己さんが『広島に行こう』と言ってくれて、みんなで、広島平和資料館にも行きました。そのことを踏まえて、監督からキャラクターの説明を伺い、勉強会でやったことが、役作りにも役立ちました」と話すと、黒崎も「三浦誠己さんが怖い顔して(笑)、『僕たち、広島に行かないことには、この映画を演じちゃいけないと思います、絶対に行きたいんです』と強くお願いされて。とても嬉しかった。戻ってきたときは、みんな目の色が変わっていて、演じるスタンスがそれぞれ違っていた」と、研究室メンバーの結束に助けられたことを振り返った。

 

 

本作の大きなテーマの一つでもある<科学>、それを体現している柳楽優弥演じる若い科者から、『比叡山に登って、新型爆弾が爆発する瞬間を見たい』と言われるシーンついて問われた國村は、「柳楽君が、この映画の中で表現した駆け出しの科学者が、この映画の底に流れている大きなテーマの一つ。科学者は興味を追求して、非常に純粋にそれを突き進めていくけれど、その行き着く先が原子爆弾だった。狂気と紙一重のところがある。(比叡山に登るということは)死の危険があることを、分かっているのに自分で行くという、普通に思ったら考えられないことも、“見たい、知りたいから”という思いから。これも狂気に近いな、という思いがある」と、科学者の純粋さと、突き詰めた先にある狂気の危うさについて触れた。それを受けた黒崎は、「思い出したけれど、(國村が、柳楽からの申し出を受けて言う)『もしワシが君くらい若かったら、同じことしたんやろかな?』というセリフは、元々の脚本にはなかった。國村さんとお話していた時、科学者として一番狂った“種”が荒勝さんにもあるからこそ、修の言うことを受け止めちゃうんだろうな、という会話をした。そんな会話をした上で、セリフを加えた箇所だった」と、本編のハイライトの一つでもあるシーンが作られたエピソードを添えた。

 

本作の中にも出てくる言葉であり、テーマでもある“未来”について話は移り、黒崎は「“未来へ繋がる”というのは、研究室チームとも、國村さんともよく話していた。何に向けて作っているのか、それは昔に向けてでなく、未来に繋がっていけばいいな、と思っている。荒勝教授と研究チームは、実験物理学者。物理学者には2つあるそうで、アインシュタインは理論物理学者で頭の中ですべて計算するのに対して、それが本当かどうか突き止めるのは実験物理学者。長い間かけて証明しないとそれが本当かどうかわからない。荒勝さんは、まぎれもなく実験物理学者で、手で触って自分で見つけてみろやと、と言っている気がしていて、何を信じるか自分で決めるその強さみたいもののヒントになっている」と、未来へどう繋げていくか、ということを、皆が共有して臨んだ作品だったことがうかがえた。葉山は「本当に先が見えない世の中だけれど、映画館でこの作品を観ることは何か意味があるのではないか、と思います。僕たちのような、若い人たちにももっともっと観てもらいたいし、アメリカの人達だけでなく世界中の人たちに観てもらって色々な感想を聞きたい。8月に観るべき作品になって…本当に、色々なことがあったので…楽しかったこの(撮影の)思い出が一生このまま続けばいいなと思います」と、撮影当時の思い出し、涙ぐみながらも、本作品を見届けてほしいといいう気持ちを語った。國村は「この映画の中でも描かれているとおり、爆弾を作ることが結果的には成しえなかったことは、ほっとしたのだとも思う。アメリカが成功したことが良いということではないけれども、そんなことも含めて、大人たちが起こしてしまった戦争に、敷かれてしまったレールで電車が暴走してしまったら、暴走した列車に乗ったという客観性を持つだけの自覚、流されず、自分の頭で考えること。特に若い人たちが、一所懸命に自分の中にあるものを自分で見つめて、『果たしてこのまま行ってよいのだろうか』と自問自答できる個人が出てくれば、世界は明るくなるのだと思う」と、劇中の荒勝教授のように、若い世代への叱咤激励の気持ちを込めて、力強いメッセージを送った。