映画『太陽の子』

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8月30日 「太陽の小部屋vol.3」イベントレポート

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このたび、8月30日(月)に「太陽の小部屋vol.3」と題してトークイベントを実施させていただきました。第3回目となる今回は、制作の裏側のお話しを伺うべく、黒崎博監督、プロデューサーのコウ・モリ、撮影監督の相馬和典、美術の小川富美夫の豪華スタッフ陣をお招きして、マル秘エピソードをお話しいただきました。

 

 

黒崎監督は美術の小川について、10年以上前に本作を構想した時から「実現したら一緒にやってもらいたい」と思っていたそうで「僕の精神的支柱。“美しい映画”にしたいと思って、まずそのことをお話ししました」と明かす。撮影の相馬とは既に何本も仕事をして絶大な信頼を寄せており「こういう物語なので、とにかく人間を正面から逃げないで撮るという話をしました」と振り返る。

 

この日のトークで最初に話題に上がったのは、柳楽優弥が演じる修の部屋のシーン。修と有村架純が演じる世津が2人で話をするシーンだが、映画で使われるのはこの1シーンのみ。モリプロデューサーによると、予算を管理する上で「ここは無くても良いんじゃないか?」と議題にのぼったこともあったとか…。

 

それでも最終的にスタジオに修の部屋を組んで撮影が行われたが、黒崎監督は「結果論ですが、柳楽くんにとっても『修ってこういうヤツなんだ!』と掴んだし、世津との関係も鮮やかに出たシーンになった」と映画にとって重要なシーンになったと振り返る。「小川さんが、修をどういうヤツだと思っているか? というイマジネーションが爆発したシーンだと思います。狭い部屋だけど、置いてあるものもそうだし、壁に数式を書き殴った跡があったり、いろんな趣向が凝らされてて、僕もあの部屋に入った瞬間、嬉しかったし、何より柳楽くんが嬉しかったと思います」とディテールを積み重ねられた美術を称える。小川も「やってよかったです」と笑みを浮かべ「道を歩いていたら電線が落ちてたりして『これは何だろう?』というところから始まっている“男の部屋”としてああなったんだと思います」と、ガラクタだらけだが、いろんなものを収集してくる修の夢と趣味が詰まった修の部屋の趣向について語る。

 

ちなみに撮影の相馬にとってもあの部屋のシーンは重要なシーンになったよう。相馬は「(映画の中で)唯一、有村さんをアップで撮ったシーンです。(アップを)撮るならあそこかな? と思った」と明かす。

 

これについて黒崎監督は「正直に言うと、有村さんのアップは相馬くんが勝手に撮ってるんですよ(笑)。僕が現場で芝居を作って『撮りましょう』と言ったら、いきなりベッドの上にカメラを乗せ始めたんです。無責任な監督と思われるかもしれませんが、脚本段階からたくさん話をしてるので、現場ではあんまり話さないんです。相馬くんが撮りたくなって撮ってる」と言葉はなくとも意思の疎通の取れた現場の空気感をうかがわせる。

 

 

続いて、話題に上がったのは、海でのシーン。相馬は海に入って、手持ちカメラで撮影を行なったが「非常に緊張しました。波がメチャクチャ強かったです」と波と格闘しながらの撮影を述懐。黒崎監督は「録音部もウェットスーツで海の中に入っていって…あの場限りのものが撮れたと思います」とうなずく。

 

 

 

 

 

また、先述の修の部屋と同様に小川の美術が光るのが、石村家のシーン。京都でロケが行われたが、小川は「人が住むということを考えて、(この家の人々は)どういうふうに生きてきたのか? (修たちの)お父さんは何をしてたんだろう? と考えて、詩を書いてたんじゃないか? と思って、いろんなものを置きました」と明かす。

 

 

黒崎監督は「小川さんが作られる美術をスケッチを描いて見せてくれるんですが、その思考の過程が撮影中、僕を支えてくれました。どこか潤いがあって、色気があるんです。それがこの物語、映画には大事だと思っています。研究室も彼らの家もそうですが、その“色気”をよすがに撮っていた気がします」と小川の美術からさまざまなインスパイアを受けたと語った。

 

そしてもうひとつ、相馬のカメラマンとしての見せ場とも言えるのが、修が山を駆け降りるシーン。相馬はカメラを手に持った状態で、全力疾走の柳楽と共に山を駆け降りて撮影しており、逆に山を登るシーンでも、手持ちカメラで後ろ向きに山を登りながら、柳楽を撮り続けたという。相馬は「他の人はやらないと思います(笑)。カメラを持つと恐怖がなくなるんです。狂気ですね…」と淡々と語り「役者さんと呼吸や間を合わせるのを大事に撮影しているので、それが手持ちカメラということだと思います。それで絵がブレても、みなさまに伝わるところなんだと感じています」と手持ちカメラによる撮影への“思い”を語り、黒崎監督も「修と重なりますね。だからムチャクチャだなと思いつつ、いつも無理なお願いをしてしまうんです」と相馬さんの“狂気”を称えていた。